元教師 黒目のブログ

元公立の教師で現在も子育ての世界で働いています。公教育、私教育合わせて約7年間仕事で子供を育てています。そんな中で役に立ちそうな知識や経験をアウトプットしていきたいと思います。

2019年の東京大学の研究を元に、子供と関わるときにかかるストレスの話と、そのストレスを軽減するために必要な科学の解答を解説してみた!

どうもみなさんこんにちは。
先日このような論文を目にしました。

教師の情動知能に関する研究動向と展望
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/52043#.YI-jbaFUuUk

この研究は2019年に東京大学で発表された論文なのですが、情動知能の観点から、現在学校の先生がどのようなストレスを受けているかを整理し、今後研究を進めていく上での指針を決める研究です。
今回はこの論文を通じて学校の先生がなぜ大変なのか?そのストレスの原因について理解を深めていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

1 要約&解説
まず学校の先生自身の情動知能について目を向けてみると、

トルコの保育者養成課程に在籍する学生435名を対象に,親の育児スタイルと学生の情動知能についての自己報告を求めた。その結果,ネグレクト傾向の育児を受けた学生は,甘やかされて育った学生や権威的でありつつも信頼のおける育児を受けた学生よりも,情動知能が高いということが明らかになった。この結果から,教師が受けた育児スタイルによって,教師の情動知能の高さが異なることが推察される。

となったようです。受けた教育がそのまま次に受け継がれているという簡単な話ではなく、どういう傾向にあったかが重要なようですね。

また、筆者はなぜ教師の仕事はストレスを感じやすいかについても述べており、

教師の仕事は感情労働であると言われ,教師は仕事のなかでネガティブな気持ちやストレスを感じやすい。

ということで「感情労働」という点を指摘しています。
また日常業務のなかで教師が経験する怒りについて探究したFarouk氏(2010)によれば

イギリスの教師52名に対するインタビューによって,教師が生徒や同僚,保護者との関わりのなかで怒りを感じていることを明らかにしている。こうした教師のネガティブ情動の原因は,教職経験や職位によっても異なることが明らかになっている。

 

教師はそれぞれの職務に特有なネガティブな情動を経験している

となっているようです。学校の先生がそれぞれ別々のネガティブ要素をもっているということですね。
ではそれらを踏まえてじゃあどうしたらいいの?というと

教師の情動知能は教師がネガティブな情動とうまく付き合い,バーンアウトを抑制する上で重要であるということが明らかになっている。

というように筆者は記述しています。ちなみにバーンアウトとは
つらい仕事が原因で心身のエネルギーを失う、快活だった人が急に労働意欲をなくし何もしなくなるといった状態になることで、燃え尽き症候群とも呼ばれています。
これはなぜかというと、これについてKarakuş氏(2013)は

トルコの小学校教師425名を対象として調査によって,教師の情動知能の高さが
教師の不安と抑うつを抑制し,結果としてバーンアウトを低減することを明らかにしている。

と記述しています。教師の情動知能がバーンアウトに影響することが明らかなんですね。まじめな人がバーンアウトになりやすい分、情動知能も高くないといけないということですね。
ここまで情動知能の重要性がどんどん増してきました。
さらにバーンアウトになりやすい先生をよく見てみると、Fiorilli, Albanese, Gabola, & Pepe(2017)らによれば、

生徒指導場面でネガティブな情動を感じやすい小学校教師は,バーンアウト傾向が高く,その結果,同僚や家族など学校内外からサポートを受けていると感じる程度も低くなるということが明らかになっている。

となっており、つまり、仕事のなかでネガティブな情動を制御することが苦手な教師ほど、日常的に周囲から受けているサポートを十分なものであると感じにくいということです。
いかにネガティブな情動とうまく付き合うかがやはり重要ということですね。また筆者は

教師の情動知能は,教師の実践に対しても影響を及ぼすことが明らかになっている。

と記述しています。これはPoulou氏(2017)による研究で、ギリシャの保育者92名を対象に、保育者の情動知能と、担当する幼児複数名の社会的スキルおよび情動的な困難についての評価を求めた研究があります。その結果は、

自分は「自己情動の知覚」「自己情動の管理」「情動理解」「他者情動の管理」に
長けていると回答した保育者ほど,幼児の情動的な困難をより低く評定していることが明らかになった。また自分は「自己情動の管理」がよくできていると報告した保育者ほど,幼児の多動性をより低く,幼児の仲間関係での困難をより高く推定していることが示された。

という結果が出たそうです。要は自分が子供とかかわる上で、子供を正しく指導している自信を持っている人は幼児の情動的な困難や多動性はあまり問題であると感じないということですね。これは保育者を対象とした研究結果なので、教師に関わらず保護者の人も関係してくるということです。
じゃあどうすれば情動知能を高め、ネガティブな情動とうまく付き合えばいいかというと、それはCastillo,  Fernández-Ber-rocal, & Brackettら(2013)によれば、

The RULERというSELプログラムの効果を,スペインの教師を対象に検証している。The  RULER は,サロヴェイとメイヤーの情動知能モデルに基づき,「情動認識」「情動理解」「情動ラベリング」「情動表出」「情動制御」の5つのスキルを中心にデザインされたプログラムである。

SELプログラムの活用を実施されています。このSELプログラムは、SEL(Social and Emotion-al  Learning)の略で、このプログラムは


(1)教師が日々の指導のなかで情動を示しながら,やりとりする方法,
(2)子どもの気持ちや考えを妥当化・促進する方法
(3)情動をうまく活用する方法が提供される。


という流れで情動知能を高めていこうというものです。
このSELプログラムの有効性についてはCastilloらによって、スペインの公立学校の教師47名を対象に、24名を実験群、23名を統制群とした効果検証が行われています。
その結果

プログラム実施前には実験群と統制群で有意な平均値差がなかった「仕事へのエンゲージメント」「生徒とのインタラクション」「バーンアウト」のいずれについても,プログラム実施後には実験群の方が統制群よりも有意に高いことを明らかにしている

と出ています。今の所SELプログラムは科学的には有効であるということですね。
このプログラム以外にもPerez-Escoda, Filella, Alegre,  &  Bisquerraら(2012)は

情動知能の理論と活用を取り入れた複数のアクティビティーを週に1回,9ヶ月間(合計30回)かけて行うプログラムの効果を検証している。

というプログラムも実施したり、
Dolev & Leshemら(2016)でも

職員全員でプログラムに参加したことにより,同僚同士の結びつきが活性化し,個人的な効果だけでなく,グループでの効果を実感する声があがっているという。

と、様々なプログラムを受けることで情動知能を高められているようです。

 

2 感想&考え
今回の論文を読みながら思ったことは
「ほぉ~、こんなに情動知能を高めるプログラムがあったんだな~、私が教師をしていた時は何一つとしてみたことなかったけど 笑」
という感じでした 笑
今回はあくまで学校の中の組織で情動知能を考えるには、上記のような様々なプログラムをすることで、指導者の情動知能を高めることはできるのですが、
もちろん個人出てきることもあります。これはPoulou氏(2017)による研究の所でも記述されていることですが、
要するに自分の指導に自信を持っている保育者は情動知能の管理がよくできているわけです。なので、
「自分が子供にしている指導は本当に科学的に正しいものか?」
「自分が子供にしている指導はこのまま進んでいって大丈夫か?」
を常に試行錯誤し、
「私の指導はこういう理由だからたぶん大丈夫!」
と思えれたら良いわけです。
今このブログを書いている私自身もそうですが、このブログを見ている画面の前のそこの貴方も、もうすでに情動知能の管理ができている。またはできるようになる明るい未来が待っている。
ということだと思います 笑
日々研究し、子供を健全な道に進める一助になれば幸いです^^
本投稿は以上です。

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当ブログはあなたの子供の子育ての一助になれば幸いです。

ここまで閲覧ありがとうございました。

参考文献
教師の情動知能に関する研究動向と展望
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/52043#.YI-jbaFUuUk

Farouk, S. (2010). Primary school teachers’ restricted and elaborated an-
ger. Cambridge Journal of  Education, 40, 353-368. 

Karakuş, M. (2013). Emotional intelligence and negative feelings: A gen-
der specific moderated mediation model. Educational  Studies,  39(1), 
68-82. 

Fiorilli, C., Albanese, O., Gabola, P., & Pepe, A. (2017). Teachers’ emo-
tional  competence  and  social    support: Assessing  the  mediating  role  
of  teacher  burnout.  Scandinavian  Journal  of  Educational  Research, 
61, 127-138

Castillo,R., Fernández-Berrocal, P., & Brackett, M. A. (2013). Enhancing 
Teacher Effectiveness in  Spain: A Pilot Study of the Ruler Approach 
to Social and Emotional Learning. Journal of  Education and Train-
ing Studies, 1, 263-272

Perez-Escoda, N., Filella, G., Alegre, A., & Bisquerra, R. (2012). Devel-
oping  the  Emotional  Competence  of Teachers  and  Pupils  in  School  
Contexts. Electronic Journal of Research in Educational Psychology, 
10, 1183-1208